狩人の夜
波打つ敷布の白の上に、月明かりと互いの呼気だけが落ちている。女のものとは違う、硬い躰と躰を寄せて重なるように抱いだき合い、フェリクスは随分と長い間、シルヴァンの胸の尖りを弄っていた。
「これが好きなのか」
「……っは」荒く息を吐きながら、シルヴァンは絞り出すように語を継いだ。「そりゃ、どうだろうなあ」
「とぼけるなよ」
そう言うフェリクスの表情はどこか愉しげだった。それはとうに答えを手にしている者の顔であり、このやりとり自体が戯れに過ぎないことをシルヴァンは知っている。
最初は接吻の作法すら禄に知らなかったくせに、フェリクスはこういったことに対しても剣術と同じくらいに熱心で、夜の逢瀬を重ねるにつれ、やわな果実の薄皮を剥ぐように、シルヴァンの秘密をひとつひとつ露わにしていった。そのやり方は彼が戦場において敵の急所を探るのとよく似ていて、シルヴァンは夜毎優しく殺される。それと共にフェリクスも果てる。もとより死ぬ時は一緒という約束を交わした間柄ではあるが、シルヴァンという存在を暴き立てることに並々ならぬ執念を燃やすようになった弟分の前で、かつてはあった年上の余裕だとかはいつしか塵芥ほどにも役立たなくなっていた。あらゆる嘘偽りは天性の狩人の手によって成す術もなく剥ぎ取られ、むき出しになった慾望がこの身の内に痛いほどに張り詰めて、ある種の期待に疼くのだ。そうなるともう、シルヴァンには何の隠し立てもできなかった。
フェリクスの方もそれをよくわかっている。わかっていて、敢えてこんなことを訊く。
「その媚態、誰に教わった」
剣を振るうために整えられている爪の先が、鋭敏な先端を柔く食む。と思うとすぐさま離れ、尋問めいてまた同じことを繰り返す。執拗な攻めに、シルヴァンは歯を食いしばって身悶えした。返事をしようにも、もう何を訊かれたのかすら覚えていなかった。そもそも聞いてもいなかったのかもしれない。じれったさに身体の芯が熱を帯びて、内側からじわじわと熔けてしまいそうだった。
「前の奴か」霞む視界で、瑪瑙の瞳が光っている。
「まえ、の……?」
甘やかな刺激の緩急に半ば浚われそうになりながら、シルヴァンは譫言のように聞き返した。それから急にはっとして言った。どうにも聞き捨てならなかったのである。
「馬鹿言え、お前が最初だよ。それまでは俺が自分で、……っああ、は、あっ、」
続きはもう言葉にならなかった。前のめりになったフェリクスが、ふくらんだ蕾の片方を口に含んで転がしていた。堪えきれずシルヴァンは喘いだ。溢れ出す声も吐息も艶めいて、夜の部屋に満ちる空気を淫靡に乱した。
唾液に濡れそぼつ頂きが冬の空気に触れるたび、痺れるような快感が走り、臍の下は既にじっとり湿っている。肉体の真実はいつも思惟を置き去りにして、身勝手に向こう側、、、、へ行ってしまう。ひとりにされるのではという切実さに駆られ、シルヴァンは覚束ない指先でフェリクスの下肢を探った。自分ばかり気持ち良くなっても仕様がない。もっと、フェリクスも。
かたい丘陵に指を這わせればフェリクスは微かに眉根を寄せたが、咎めることはしなかった。シルヴァンは少しだけ安堵して、そこを衣服越しに何度もなぞった。やがてフェリクスは上体を起こし、荒い息を吐き出しながら言った。
「先の言葉、信じてやらんでもない」
端から疑ってもないくせに、とシルヴァンはうまく回らない頭で思う。思うが何も言葉にはならない。言葉にする余裕がない。が、敢えて言葉にする意味もない。フェリクスがそれを知らないわけもないからだ。そうこうしているうちに、そのフェリクスが耳許に唇を寄せてくる。ふっと笑った気配があって、シルヴァンは思わず期待に身を震わせた。
「だから全部、明け渡せ」
シルヴァンは観念して目を瞑った――ああ、今宵も逃れられない。