独占欲
「采配に納得いってない、そんなツラだな。顔に出てるぜ、先生」
飛空城からの帰り道、それまで意図して避けていた相手にとうとう捕まって、ベレトは少なからず困惑を示した。もっとも、同じ攻撃部隊に配属されてしまったのでは、どうあっても避けようがないのだが。
「あんた、元いた世界の俺といい仲なんだろ。身体だけじゃねえって、わかるよ」
「なぜ」
「おっ、ニブいのは相変わらずかあ?」
言って、ユーリスがずいっと顔を寄せてくる。微かな白粉の匂い。暫くぶりに見るユーリスの攻勢に少なからずたじろいで、からかうんじゃない、と口を尖らせたベレトのすぐ目の前で、薄紅の引かれた唇が蠱惑的な弧を描く。
「依怙贔屓なんかとはおよそ無縁そうな聖人のあんたが、俺ひとりのことでそんな顔してるからさ。危険といやあ危険でも、足のある俺を囮に使うのは、戦術的には妥当も妥当なところだろ。それがわかんねえあんたじゃないはずだ。……だが、」言いながら、ユーリスは自分の胸元をトントン叩いた。「ここがどう思うかは、それとはまた別の話ってわけだな。違うか?」
すみれ色の瞳に鋭く射抜かれて、ベレトは黙っていた。元いた世界でのことをあまり触れ回らない方がいいと特務機関の面々から釘を刺されていたのもあるが、まさかユーリス相手に下手なごまかしが通用するわけもない。それに、彼の言う"そんな顔"というのが一体どういうものだったかも、ベレト自身にはよくわからなかった。自分の顔というのは、鏡でもなければ見えないものなのだ。これほど近くにあるにも関わらず。
ベレトは少し考えて、何かものを言う代わり、それこそ鏡合わせのように、ユーリスの勝ち気な笑みをそっくり真似て返した。学生の時分にはまだ知るはずのない教師の茶目っ気に、ユーリスは一瞬、その大きな目を見開いて、それから鼻を鳴らして笑った。
「なるほど、やっぱりあんたは俺の知ってるあんたじゃないらしい」
「君がいつか知るかもしれない俺ではあるけれど」
「そういうところだよ」ユーリスの腕がすばやく肩に回って、軽く引き寄せられる。「だが、嫌いじゃないぜ。そんな顔のできるあんたも」
耳になまめかしく吐息が触れて、ベレトは思わず身をこわばらせたが、ユーリスはどうもその反応だけで満足だったらしい。勝ち気な笑みのままでベレトを解放すると、後は軽く背中を叩いたのみで、じゃあな、と大股に去っていった。
一人取り残された後、それをなんだか物足りなく思っている己を恥じて、ベレトはくすりと苦い笑みをこぼした。脳裏には、子どものように拗ねてみせる伴侶の美しい顔がある。見上げた空には見事な夕映えが広がっていたが、このアスクの空はフォドラのそれとは繋がってはいない。遠い目になって、ベレトは今は遠いその人を切に想った――たとえ別次元の君が相手でも、やっぱり浮気は浮気だろうか。