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Nothing blue can stay

 白鷺杯。奴の前でその単語を迂闊に口にしてしまったのが、そもそもの間違いだったのだ。
 おそらくは最初からそのつもりでいたのだろう。奴は俺が墓穴を掘るのを待っていたかのように、薄ら笑いと共に俺の肩に手を置いて、代表の役を押しつけてきたのだった。
 他にいなかったのか。俺が不服の意を示して食い下がると、奴は優勝する自信がないならやめてもいいという旨の話をした。そんなわけがあるか。そうではない。……そうではないが、実際、候補はいくらでもいるはずだった。ましてや同級の見栄坊やドロテアあたりの人間がそこに志願しない訳はない。
 それらを無視して、どうして青獅子ルーヴェから移籍してきたばかりの俺に黒鷲アドラーの代表などをやらせるのか、俺にはわからなかった。そこに合理的な理由があるとはとても思えない。もしこれが奴なりの期待のかけ方なのだとしたら、根本から間違っている。俺は奴の剣を間近に見るため、奴を超えてより強くなるため、ただそれだけのために、学級を移ったに過ぎない。だから帝国の連中と馴れ合う気はないし、まさかその代表として人前で円舞ワルツをやるなどまっぴらな話だ。それに何の意味がある。強くなることと、一体どう関係がある。それもこれも結びつかんではないか、馬鹿馬鹿しい。
 そも、人に代表を任じておきながら、踊りの練習には一度付き合ったきり、それで終わりというのだから呆れ返る。その時にはさすがにひとりでやるよりはだいぶマシだと思えはしたが、あの程度で指導が十分だと思っているなら、これほどひどい話はなかろう。ほとんど放り出されたようなものだ。とんだ貧乏くじだった。
 そのせいで、俺はこいつを頼るしかなくなったのだ。黒鷲の所属として出場するというのに、他学級の生徒を相手に練習していいのかと自分でも思うが、しかし背に腹は変えられない。いくら不本意だとしても、勝ち負けの存在するものであるからには、俺は必ず勝つ。必ず勝って、奴に実力を証明する。いつか奴のことも超えてみせる。そう、誰より速く、誰より強く、剣の高みに、それから……。

 ***

「うーん、途中、肘がちょこっとだけ下がってたかなあ。基本は十分だから、後は本番までに減点されそうな箇所を一個ずつ減らしていくのがいい」
「チッ……貴様に言われずとも、それくらいのことは……」
「おいおい。頭でわかって、ちゃんと実践できて、それで初めて一人前だぜ。完璧を目指すにはやっぱり他人の目がいる。で、俺がここにいるのはそのため、ってなわけだ」
「……まあ、そうだな」
「しっかし、なんで黒鷲の代表がお前かねえ。そりゃ、舞踏の経験がないわけじゃないし、素材もいいと思うけど」
「知らんな」
「俺はてっきりドロテアちゃんが出るかと思って、そりゃあもうめっっっっちゃくちゃ楽しみにしてたってのに、蓋を開けたら野郎かよ、それもフェリクスかよ! って。そん時の俺の気持ちがわかるか? んな殺生な話があるかよお」
「だから、知らんと言っている」
「はは。当のお前も知らないんじゃ、何か、選んだ人間にしかわからない理由わけがあるんだろうなあ。いや、ほんと不思議だよなあ、あの人。……正直なところどうよ、フェリクス」
「どうとは、何のことだ」
「あの人の学級に移って後悔してないか、ってこと。ここだけの話、お前と離れて、殿下はちょっと寂しそうだぜ」
「ハッ、俺の知ったことか。己の選択が正しかったかどうかは、この先の俺自身が決めることだ。猪には関係ない。貴様にも、イングリットにも、……もちろん親父殿にもな」
「あー、はいはい、そう言うと思った。納得づくで移ったんだもんなあ、お前。……さて、誰かさんがのっけから後悔することがないように、今回は俺も真面目に協力してやるとしますかねえ」
「これまでは不真面目だったのか」
「え? まあ、そいつは言葉の綾ってやつだ、うん。ほら、手ぇ貸せよ。……はい。いち、にー、さん、いち、にー、さん……おっ、今回は結構いいんじゃないか? 欲を言えばあともう少し、俺にやさしく」
「そうか」
「だってお前さあ、そんなぶっきらぼうじゃ女の子と踊る時……ッてえ! おい、フェリクス! お前今ぜってえわざと踏んだろ!」

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