phrase d'armes
剣士が互いの肚を確かめるにはひと振りずつの剣があればそれでよく、相手と心根の深く通じているのを彼女はその実よく知っていた。彼の方もまた然りであったのは言うまでもない。彼等はその手に振るう剣で、ひとたび戦場に立てば数多の生命を花と手折るその剣でもって、語るともなく物を語り、紡ぐともなく詩を紡いで、うたうともなく唄をうたった。それは鉄と鉄の、魂と魂の響き合う清冽な楽の音となって、いつも訓練場にこだました。
だからこれまでふたりの間にはそれら以上のこと、つまり世俗の恋し惹かれ合う男女の間にありがちなことは何ひとつとしてなかった。或いは逢瀬の代わりに手合わせを、接吻の代わりに鍔競りを、別れを惜しむ代わりに再戦の約束をしたかもしれないが、彼等はあくまで純であった。恬淡であった。剣を交わしていればそれでよかった。少なくともその時にはそれでよかった。しかし、戦乱の日々が遠く終わりを兆してからはそういうわけにもいかなくなった。
みな平和のためにこそ戦っているというのに、戦いのない世界には彼等が共にあるべき由もなければ、剣士という生き物の存在意義もない――皮肉にも、彼と彼女とを結びつけている縁は戦争という非日常それ自体であったのだ。互いに互いの実力を認めていればこそ、まさか戦地で、ましてやそれ以外で相手を失うことがあろうとは露思わずにいた両者は、突如として明るみに出た真実に、自分たちでも意外なほどに狼狽した。
やがて五年の長きに渡った戦争は終わった。旧時代の体制は滅び、このフォドラは開闢以来の大変革を免れない。そんな希望と不安のないまぜになった予感を胸に、人々は終戦を迎えた。生き残った彼等もまた、そこにいた。その胸の内では、いとしさを種火に決意の炎がしずかに燃えた。もとより同類であるふたりの心はひとつであり、これまで剣のことばによって囁いてきたもの、その正体を悟るまでには、一晩もあれば事足りた。
そうしてフェリクスはベレスに求婚した。あまたの音を響かせた、ここガルグ=マクの訓練場で。
愛している。わざわざ言わせたベレスだが、そのことばを、彼女は初めて聞くような気がしなかった。